本当は怖い語源の話 ~ slave(奴隷) [その7]

 

注目すべきはルーマニア語です。現代ルーマニア語では奴隷はsclavですが、古ルーマニア語でruman(ルマン、「ローマ人」)と言っていました。

これを知ったときは、え?と思いました。ルーマニアという国名は「ローマ」に由来しています。ルーマニア語ラテン語の子孫です。そんなルーマニアでなぜ、「ローマ人」が奴隷の意味を表すのか。

これはルーマニアが言語的にはローマ人のラテン語の子孫だけれど、地理的には、ブルガリアウクライナセルビアなどスラブ諸国に囲まれているスラヴ圏内の国であること、また宗教的にもローマカトリックではなく、スラブ系のギリシア正教の影響のが強いという、ややこしい状況にあったからです。

実際、ルーマニア語には「iubi(愛する)」「prieten(友人)」など基本単語でもスラブ系の言語が多く混入しています。

中世ルーマニアでは、スラブの影響が優勢だったのでしょう。だから、スラヴ人に支配されたローマ人のことを指して、転じて奴隷の意味にしたのでしょう( 現代ルーマニア語では、roman(ロマン)は単にルーマニア人ことです)

なおこのルーマニア(Romania)という「我こそはローマの直系」と誇らんばかりの国名は、1859年にモルドヴァトランシルヴァニア、ワラキアの三国が統一されたときにつけられた名前です。川之江市伊予三島市・土居町・新宮村が合併して四国中央市というたいそうな名前を名乗ったようなものでしょうか。